日本でも一部の間ではよく知られたEurovision Song Contest(以下「ユーロビジョン」)、なんぼユーロビジョン好きでもあんまりここにスポット当てんやろ!ってこじらせかたをするのが当サイト、オフトナイズでございます。
ということで、今回は歴代最長9年連続参戦、スポークスパーソンの「イスラエルおじさん」ことOfer Nachshonさんのお話。
まずはユーロビジョンの段取りを説明しておこう
ユーロビジョンは予選と決勝で構成されている。
予選・決勝共に、
- 参戦する国が順番に歌う
- 各国で視聴者投票を集計
- プレゼンターが結果を発表する
という段取り。
3については、予選だと開催国のプレゼンターが全ての国の投票結果を発表するんだけど、決勝は各国に中継を繋いで各国の代表者が結果を発表する。
投票結果はポイント制で反映され、投票結果が1位の国に12ポイント、2位の国に10ポイント、という感じで以下8、7、6、5、4、3、2、1ポイントを投票結果順に与えることが出来る。もちろん自国には投票出来ない。
年によってルールが若干変わることがあり、この視聴者投票と別に審査員票があったり決勝投票があったりするんだけど、とにかく視聴者投票の結果を各国のスポークスパーソンが中継で発表していくスタイルは変わらない。
スポークスパーソンとは
ユーロビジョンで言う「スポークスパーソン」とは、中継先でその国の結果を発表する人のことを指す。
毎年違うスポークスパーソンを出す国、過去のユーロビジョン代表者がスポークスパーソンを務める国、その国のTV司会者やアナウンサーなどの決まった人物が何度もスポークスパーソンを務める国など、パターンはいろいろ。年によってアナウンサーだったり過去のユーロビジョン代表者だったり変えてくる国もある。
なんやかんやで一番面白いのは最終投票
当たり前だけど、その年の優勝者が決まるわけだからね。
でもね、「どこが優勝すんの!?今年は誰が優勝すんの!?」って楽しみだけじゃないんよ最終投票は。
最終投票では、どの国がどの国に多くポイントあげたとか、欧州各国の関係性や、当時の欧州事情が垣間見えるので、そこにも注目してみるとより一層楽しめると思うよ。
結束の固い北欧勢
ユーロビジョン強豪国のスウェーデン🇸🇪を筆頭に、クセのすごさに定評のあるフィンランド🇫🇮、一度も優勝したことのないアイスランド🇮🇸、地味に10年周期ぐらいで優勝するノルウェー🇳🇴、割と表彰台圏内には入るけど滅多に優勝しないデンマーク🇩🇰の北欧5か国は、ほぼ毎年上位3か国に北欧勢をランクインさせる。
この結束の固さは、北欧同士では「さすが北欧!仲間だもんな!」と歓迎される一方で、明らかに北欧以外で下位評価だった北欧勢を高評価した場合、他国からは同情票とみなされ、しばしば「ハイハイ北欧北欧、質より友情ね」と冷めた空気になることも。
とはいえ、基本的にクセつよのフィンランドを除けば、北欧勢は真面目に勝ちにいく歌手を出してくる傾向があるので、普通に評価しても北欧のどこかしら1か国は毎年他の国も上位にランクインさせてくるからそこまで違和感はない。
国境よりも民族的な
言うても隣国とは国境を設定してるぐらいなので、同じ国として生きていくほど仲良くはない。でも、広範囲で見た場合、元々は同じ系統の民族だったり、同じ言語、近い言語を使う国とは魂が分かり合えるのかなって結果になりがち。
たとえば、ラテン系の国。特に、イタリア、スペイン、ポルトガルあたりはノリが近いのか、高い評価の時は「ありがとう心の友ー!」と言った感じで、お互いの言語でお礼を言ったりしてる。グラッツェー!グラシアース!オブリガードー!言語は近いのに「ありがとう」は全部違う。
あとはスラブ語圏。ロシアを筆頭に、旧ソ連諸国などの東欧各国。文化的にも近いのか、曲の好みが近いのか、スラブ同士も割とお互いに票を入れがち。
ここで微妙に複雑なのがロシアね。ロシアの扱いは欧州全体的にもちょっと特殊というか、政治的に一悶着しがちな国なので、年によってはロシアに対して全体がボイコット気味な時がある。俗に言う、西側が主導でそんな空気の時と、旧ソ連諸国側が主導な空気の時があるので本当に複雑。
また、ロシアに対しては割とみんなはっきり態度に出すので、ロシアがアウェーの年に上位でポイントが入ると、結構大きめのブーイングが起こったり、拍手や「YEEEEEAH!!!」の声もまばらだったりする。
さらにアレなのが、ウクライナも若干問題児個性的なので、ロシアvsウクライナで見えない戦いが勃発してる時もある。一方で、ベラルーシは毎年結構な親露っぷり。まぁとにかく政治は一旦置いといてもらおうか…
あと個別に意外と仲良さそうだなって感じたのは、ドイツとオーストリア、フランスとベルギー、イギリスとアイルランド、それぞれ歴史的に結構いろいろあったので国境はしっかり引くけど、音楽的には友好関係が築けてるんだなって。
イスラエルおじさん?
ようやく本題まで来ました。こちらがその「イスラエルおじさん」。
I really want to know what happened in Vienna 2015 to Ofer Nachshon, the Israeli spokesperson. He gave the votes from 2009 to 2017 and every year he dedicated some words in the language of the hosting country (getting applauses). But not in 2015. And he had a kinda sad smile. pic.twitter.com/hYuNA1z2QA
— Eurovisiya Mursiya (@EMursiya) November 30, 2020
この右側の男性、Ofer Nachshonさんのことなんだけど、まずコレをどうカタカナにしたらええもんか…
もっと言うと、עופר נחשוןさんなのよね。イスラエルはヘブライ語が公用語の国なので。
一生懸命発音を確認したんだけど、Oferはええとして、Nachshonはカタカナで書いたら「ナッション」が一番近いと思うんだけど、絶対ナッションではないんよ。(伝われ)
chがドイツ語のIchのchみたいな音。Ichも「イッヒ」って転写されがちだけど、発音聞いたら絶対「ヒ」じゃないじゃん?そんな感じ。
でも、日本語の文字ではどうも出来ないので、暫定的に「オーフェー・ナッション」さんになってもらいます。
なんで「イスラエルおじさん」なのかと言うと、今回この記事を書くまで名前を知らず、ずっと個人的に「イスラエルおじさん」って呼んでたんよね。そんだけ。毎年出てくるイスラエルのおじさん。
イスラエルおじさんは語学の鬼
イスラエルおじさんの本職はラジオアナウンサーでマルチリンガル。母語であるヘブライ語の他、英語、スウェーデン語、デンマーク語、イタリア語にも堪能とか。
彼は2009年~2017年の間、IBA(イスラエル放送局)の代表として、ユーロビジョンでスポークスマンを務めていて、すでに5か国語に堪能なイスラエルおじさんは、毎度ユーロビジョンで中継が繋がった際、開催国の公用語でご挨拶するのが最終投票名物となっていた。
たとえば、フランス語圏やロシア語圏など、割と複数の国が公用語として採用してる言語ならまだわかるけども、9年もスポークスマンをやってると、アゼルバイジャン語のような話者の少ない言語を使う国が優勝したりするわけよ。
それでもちゃんと準備して開催国の言語でご挨拶する。これぞスポークスマン魂。
スポークスマン任期中に披露した言語一覧がこちら
- 2009 ロシア語(開催国:ロシア)
- 2010 ノルウェー語(開催国:ノルウェー)
- 2011 ドイツ語(開催国:ドイツ)
- 2012 アゼルバイジャン語(開催国:アゼルバイジャン)
- 2013 スウェーデン語(開催国:スウェーデン)
- 2014 デンマーク語(開催国:デンマーク)
- 2015 英語のみ(開催国:オーストリア)
- 2016 スウェーデン語(開催国:スウェーデン)
- 2017 ウクライナ語(開催国:ウクライナ)
2015年だけはオーストリア(公用語はドイツ語)でなぜか英語のみだったけど、それ以外は全て開催国の公用語でのあいさつを披露。
何がすごいって、「Добрый вечер!」、「Guten Abend!」みたいな「こんばんは」的な挨拶だけじゃないんよ。開催国の公用語でそこそこの長文をしゃべる。
かろうじて2009年は「こんばんはモスクワ、今日は素晴らしいショーを見せてくれてどうもありがとう」的なことを言っていたっぽいことはわかった。たぶん、「Good evening, Moscow. Good evening, Alsou and Ivan. Thank you very much for such a cool program.」の直訳ぐらいの感じなんじゃなかろうか。それ以外の年は全くわからんかった。()
2009年は初登場なのでこれぐらいの短さだけど、それ以降は平均して大体これの3倍ぐらいの長さを各開催国の公用語で流暢にしゃべるんよ。文章自体はそんなに難しい文法じゃないのかもしれんけど、メモを読み上げるわけでもなく、これだけスラスラしゃべれるようにしてくるってことは相当語学自体が好きなんだと思う。
こちらは2012年のイスラエルおじさん。
出だしの「シャローム」はアゼルバイジャン側がヘブライ語でご挨拶してくれたので、そのお返事。英語で言う「Hi」に相当するやつらしい。
その後、だいぶいろいろしゃべってるけど内容が一個もわからん。わからんけど大喝采のイスラエルおじさん。現地勢も感激するほどの流暢さなのだろうか。
イスラエルおじさんの引退
イスラエルおじさん最後の年の2017年ウクライナ大会。
最初はもちろんウクライナ語でご挨拶。なんだかちょっとさみしそうなイスラエルおじさん。続いて話した内容がこちら。
イ「こちら、エルサレムのIBA(イスラエル放送局)チャンネル1からお伝えしています。イスラエルはこれまで44年間ユーロビジョンソングコンテストに参戦し、「A-Ba-Ni-Bi」、「Hallelujah」、「Diva」という曲で3回の優勝も経験してきました。しかし、今日が我々にとって最後の日です。IBAは今年で放送事業が打ち切りになってしまいます。ですから、IBAを代表してヨーロッパのみなさんへ、このような素晴らしい時を過ごせたことのお礼を言わせて下さい。(たぶんフランス語でも同様の内容を話す)、そして、願わくば、またいつかお会いしましょう。それでは、イスラエルからの投票結果です。イスラエルからの12ポイントはポルトガルです!」
ワイの中の全欧州が泣いた…!最後の最後は、なんとポルトガル語でポルトガルへの12ポイントをアナウンス。語学の鬼らしく、最後はサプライズなイスラエルおじさんなのだった。
そして突然のイスラエル最終戦のご案内に動揺するヨーロッパ。と思いきや、イスラエルおじさんが話した通り、IBAが終了するだけで、イスラエルの参戦は今後も続きます。(なんなら翌年優勝します)
どうやら、イスラエルの国内事情(?)によってIBAからIBC(イスラエル放送協会)に国営放送が切り替わるらしく、今までユーロビジョンの窓口となってきたIBAの代表としてお礼を言うよ、ってことらしい。そして、この年を最後にイスラエルおじさんの登場はなくなった。(2020年現在)
ワイ以外にも割とイスラエルおじさんファンがいて、あの語学マイスターが消えた!とか、何があったの!とかザワザワしたらしいけども、調べたらそういうことでした。
イスラエルおじさんのその後
イスラエルおじさん引退後のユーロビジョンでは、2018年はイスラエル放送協会のアナウンサーLucy Ayoubさんが、2019年は1978年の優勝者Izhar Cohenさんがスポークスパーソンを務めているので、IBAに所属してた人は暫定フリーか何かになったのかと思ったんだけど、イスラエルおじさんのWikipedia見たら「Gimel」というIBC系列のラジオ局のアナウンサーになってるらしいんよ。
で、そのGimelとかいうラジオ局の公式サイトを見てみたところ、どうやら現在は懐メロ(たぶん)のラジオ番組のパーソナリティなどを務めているらしい。
マジでヘブライ語読めなすぎて探すに探せないけど、イスラエルの懐メロ、正直嫌いじゃない。
↑これ、イスラエルおじさんがパーソナリティを務める懐メロ番組のアーカイブページね。
どうやらこの番組、パーソナリティはほぼしゃべらんみたいやけど、たまーに曲と曲の間でしゃべってるのがたぶんイスラエルおじさん。たぶんね。正直どれがCMでどれがトークなのか区別がつかん…。
しかも、イスラエルおじさんがヘブライ語話してるのほぼ聞いたことないので、ヘブライ語の時はどんな感じなのかピンと来ない。なんせユーロビジョンの時より明らかにトーンが低くて自信ない…。
だいぶ話逸れたけど、IBC系列に移籍してるっぽいなら、なんでそのままユーロビジョンのスポークスパーソンやらんのかね?内部事情があるんかね?
イスラエルおじさん帰って来て
やっぱイスラエルに中継が繋がった時は、あのイスラエルおじさんが登場しないとしっくり来ない。リトアニア語とかハンガリー語とか話すイスラエルおじさんが見たい。(まずはその国が頑張って優勝せんといかんけども)
今でもIBC系列に所属してるならワンチャンあるんじゃないかと思うので、スポークスマン復帰まで楽しみに待ってます…
おしまい