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分解・修理マニュアル投稿サイトが日本で普及しないと思う10の理由

disassemble as the featured image PC関連
この記事は約10分で読めます。

何を隠そう、約10年ほどPCの修理工やってたんだよね。

で、たまたまtwitterで、各メーカーの機械の分解手順や修理ガイドをまとめてる外国の会社のプロモーションを見かけて、一見便利かな、と思ったんだけど、元プロとしていろいろ引っかかったことがあったので言及しておこうと思う。

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修理マニュアルを募って公開する会社…?

そのサイトはとにかくいろんな機械の修理マニュアルのデータベース化を目指しているらしく、見た瞬間は「おぉ~便利そう」って思ったけど、すぐに「いやこれ少なくとも日本社会では問題になるタイプのサイトやろうな…」って思ったのでその理由を書く。

正直言って、その会社とあまり関わりたくないので名前等は出しません。

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①分解・修理ガイドをユーザーに作成させる

その会社のサイトでは、一般人がユーザー登録をして、自分が作成したコンテンツ(分解・修理ガイド)を投稿する仕組み。

問題はそのクオリティ。一応「こんな感じで作ってね」というガイドラインはあるけど、あくまでも写真の撮り方とか、説明文は詳しく書きましょう、みたいなガイドラインだったので、注意点などの基準は作成者に依存する様子。

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②コンテンツ作成者はターゲットのスキルがわからない

実際の修理屋でもそうだけど、相手が初心者なら初心者向けの説明をしないと事故やケガをする恐れがあるので、説明するときにはそういう部分をすごく気にする。

コンテンツ作成者は「同じ機械を持ってる人」というざっくりしたターゲットしかわからないので、「これぐらいは言わなくてもわかるだろう」と思って説明を省いてしまったら事故の元だよね。

どれぐらいのコンテンツ作成者がそこまで気にしてマニュアル書いてくれるんやろうね?

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③作成したコンテンツの扱いが酷い

そのサイトに投稿したコンテンツは全て「クリエイティブコモンズ BY-NC-SA 3.0」というライセンスが付くんだって。

クリエイティブコモンズ BY-NC-SA 3.0とは、非営利目的であれば、出典を表示するだけで、どの媒体でも自由に複製、配布、改変出来る権利のこと

作成したコンテンツは作成者が著作権を持つみたいだけど、同時にサイト側もそのコンテンツの再公開、再ライセンスの権利を保有し、サイト側がそのコンテンツを利用したり、作成者からの事前同意なく第三者に対してライセンスすることが可能なんだって。

体感的には、もはや「コンテンツの献上」よコレ。

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④修理作業には向き・不向きがある

個人的には各製品の修理マニュアルの公開や部品の販売をしてもらえたら泣いて喜ぶけど、やっぱり作業的な面では賛成出来ない。

分解作業自体はそれこそマニュアルがあれば誰でも出来ると思う。出来るんだけど、たとえ機械が好きでも不器用な人や大雑把な人は、一般人が書いたマニュアルだけを当てにしてやるのは危険

それと、これを機に修理をやってみようと思ったガチの素人さんも危ない。修理とはなんぞや、という大前提をご存知ないと大惨事になるよ

例えばPCの分解修理では、

  • 静電気NG
  • ネジの長さを気にしないのもNG
  • サイズの合ってないドライバーを使うのもNG
  • 修理の過程で壊してしまったら自己責任
  • 分解跡があるとメーカーで修理を受け付けてもらえない可能性あり

など、少なくとも上記ぐらいは理解しておいてくれないと最悪の場合PCが燃えるよ。マジで。

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⑤他力本願なのにすごい上から目線

そのサイトでは、まずコンテンツの大半をユーザーに依存してるにも関わらず、なんと各ユーザーが作成したコンテンツ以外にも、サイト全体の翻訳までユーザーにやらせる

ご丁寧に「翻訳ガイドライン」と称して「機械翻訳使うな」とか「お堅い感じはやめて」とか注文つけまくり。さらに、分解・修理ガイドの翻訳をする人はユーザー登録後、サイトに自己紹介と言語スキルを申請し、OKが出ないと翻訳出来ないと書いてる。仕事か?

サイトを見れば見るほど、なんでそんなに上から目線なのかわからないぐらい上から物を言ってるんだけど、その最大の原因は、たぶんそれを翻訳した人の語彙力のせい。

英語の文法上、日本語にした時にちょっと上から目線っぽくなっちゃうのはわかるけど、だからこそ日本国内でよく見る感じの文章に「変換」しないと、本来の言いたいことと合わなくなっちゃうんだよね。

あなたは本サイトのコンテンツを翻訳できます

私たちと一緒に本サイトのコンテンツを翻訳してみませんか

まぁこういうことですわ。受け取る印象がだいぶ違うでしょ。

プロの翻訳にも機械翻訳にも頼らず、一番中途半端な素人に他力本願で翻訳までやらせるからそうなるんよ。

いっそのこと機械翻訳の方が割り切って読めるんじゃなかろうか。それぐらい日本語は言い回しに関しては特殊な言語ということを存じ上げないんでしょうなぁ。

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⑥どこのメーカー系列でもない会社が、製品内部の公開をユーザーに促す

「会社」としてこれをやるってのは限りなくグレーなんじゃないかと思う。正直言ってメーカーからしたら敵以外の何ものでもないっしょ。

だって、自社製品を買ってくれたお客さんに、自社と全く関係ない会社が「バラして全世界に公開しろ」って言ってきてるのと大差ないからね。

しかも他のお客さんもそのサイトに上がってるマニュアル見ながら修理に挑戦して、ギブアップもしくは失敗した場合、そのままメーカー修理に流れてくるかもしれないってことでしょ?メーカー側の保証規定によってはユーザーが分解した時点で保証対象外とか修理自体受け付けてくれないとか普通にあるからね。

うっかりさんの素人が何も確認しないで手を出した挙句、失敗してメーカーに連絡した場合、「修理を受け付けてもらえない」とか「もっと詳しい分解修理手順を教えてほしい」みたいな内容でコールセンターにゴネるのが容易に想像つくわ。

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⑦こんなにハイリスクなのに報酬なし

上記全てを飲み込んで、そのサイトにとって理想的な分解・修理ガイドを作成したとしよう。
それだけの基準でやってたら、間違いなくお金取れるぐらいのコンテンツが出来上がってるハズなんだ。

なのにタダ!そんだけ頑張って何の報酬もなし!

日本以上に社畜根性ヤバいと思うし、無自覚の搾取感覚が根底にあるとしか思えない。

その会社の公式twitterアカウントが

エンジニアや修理工としてお勤めの方々が余った時間を使ってガイドを作成してもらえるのが理想です

って言ってたんだけど、プロの人がそんな作業をボランティアでやると思ってることが怖い。自分の余った時間を削ってまで修理未経験者のために1銭にもならない資料作りをしたい変態は相当少ないと思うよ。

それと別に、たぶん修理業界では普通のことだと思うんだけど、入社/退社時に守秘義務の書類にサインするんだよね。自分が今まで携わったことに関して外部に情報を漏らしませんよ、という誓約書。これがある時点で修理工として現在お勤めの方や、私のような元修理工はその会社の製品については情報が出せないわけよ。

ということは、もしやるとしたら他社さんの機械の情報を出さなきゃいけないんだけど、勤務時間外に他社製品をバラして資料を作成してをタダで寄越せとは?ちょっと悪意を込めて言うと、「タダで他社の情報探って寄こせ、ただしその情報流すことによるお前側のリスクは知らん」という状態よ。こわい。

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⑧分解・修理マニュアルは製造メーカーにすら無い

そもそもの話、ベアボーンなどの製造元が分解マニュアルを添付してくることはあるけど、自社で分解・修理マニュアルを所有してる販売メーカーって見たことない。

まぁ修理マニュアルが無いのはある意味当然。修理作業の手順をマニュアル化したら膨大な量になるし、そもそもその製品の販売後に発覚した不具合に対処するのが修理センターなので、マニュアルの作成が完了するということは、製品のサポートが終了することとほぼ同義なんだよね。

分解に関しては、たぶんほとんどの修理工が「ここ開きそうだな~」って適当にあれこれいじって分解してるだけだろうね。それを繰り返してれば、自分の専門外で初めて分解する機械でも、なんとなく分解方法がわかるようになるんだもん。

言い方悪いけど、要するにその程度のことが出来ない人は分解作業に向いてないと思うよ。

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⑨権利を守る為の「自己責任」が正しいとは思えない

アレコレ書いたけど、その会社はアメリカの会社なんだよね。

一般人も修理をする権利」のようなことをサイト内で主張してらっしゃいました。正直、「アメリカっぽい発想だなぁ~」って思った。(偏見)

物を大切にしよう、自分で出来ることは自分でやろう、という発想から、その会社を立ち上げたんだろうなってことはわかるのよ。私もその発想はとてもいいと思う。その割にいろんなことを「自己責任」の一言で片付けすぎ。

そのサイトの修理ガイドには「車」というジャンルもあったんだよね。一歩間違えば大事故やで。もちろん車を自分でバラすアマチュアの愛好家もいるけども、何というか、自動車整備士が日本で国家資格に指定されている理由がわかってないんでしょうね。

人がケガするかもしれない、事故が起きるかもしれない、ということを軽く考えすぎに見えるんよ。その会社自体は分解修理ガイドを作るわけでもなく、ユーザーに「作成して投稿してね」って呼びかけてるだけだからなおさら無責任に感じる。

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⑩サービスに対する考え方が日本とあまりに違う

以前、軽い気持ちで

「ガイド見ながら自分でやってみて結局出来ず、修理に出したら破損させてたのて有償対応になってキレるお客さんが大量に発生するのが容易に想像つく。」

と公式twitterを引用ツイートしたら中の人からレスをもらってしまい、

ガイドを見て修理ができるかはユーザーの方が決められると思います。選択肢が増える、今はない修理情報を必要な人が自由に利用できるのが目標です。

と言われてしまった。やっぱアメリカっぽいよね。(偏見)

「使う人は使うんだから情報は公開してみんながいつでも見れる権利を!」というのが向こうの主張。

私は元プロとして、ガイドを見ないと分解修理出来ないような人たちの為に、メーカーによっては禁止事項に指定されている分解修理作業の情報を、不特定多数が見られる状態で提供することには疑問がある

また、公式twitterは

修理技術がある方がガイドを書いていただければ、製品の寿命はより長くなるはずです。

ともおっしゃってた。

もし私がまだ現役で修理屋をやってる時にこの回答を見てたら、正直言って「侮辱」と取ってたと思うわ。修理屋として稼いでるのに、タダで情報流してユーザーがみんな自分で修理するようになったら、結果的に自分の仕事が減る、もしくは素直に修理に出してれば直せたのに、ユーザーが散々こねまわしたおかげで直せなくなったようなやつが流れてくるようになるわけだからね。

製品の寿命を延ばしたい、とか体のいい建前にしか聞こえない。「情報さえ渡してくれればお前が職を失おうが知ったこっちゃない」と突き付けられてる感じ。

製品の寿命を長くしたいなら、それを作ったメーカーにお金を払って修理してもらうのが一番確実だよ。ちゃんとしたメーカーであれば部品はいっぱい持ってるし、修理保証だってあるし。修理で利益が上がることがわかれば、耐用年数の高い製品を開発する方向になるかもしれない。

実際問題、修理は利益を出しづらいから、ガンガン新製品作って短期サイクルで買い替えてもらおう、みたいな節があるからねこの業界。(それはそれで腹立つんだけど今回は蛇足)

サポート期間が終わった製品の寿命を延ばしたい、というのであれば、それは言い方がアレかもしれないけど延命治療みたいなもんよ。一応動作はするけど回復する可能性は低い状態。それよりもちゃんとお金を払ってメーカーに修理を依頼し、耐用年数の長い製品を発売してくれるよう、メーカーに「そういうニーズがあるよ」って伝えた方がまだ建設的なんじゃないかね。

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結論:現状の日本では受け入れられづらいサービスである

大前提として、現時点で日本のほぼ全メーカーが情報を出さないスタンスなので、修理に関する文化や常識をかなり日本側に譲歩して頂かないと日本では成立しないサービスだと思う。

ましてやその会社が扇動して素人に修理に挑戦させたことによって発生するメーカー修理への負担についてはどうお考えなのかな。分解修理作業において、どの辺りまでが自己責任なのか、重大な事故が発生した時の責任は、とか少なくとも日本では敬遠されるだけの理由があるわけでして。

車メーカーみたいにメーカー自身が分解マニュアルと部販を持ってて、一般ユーザーにお手伝いをお願いするならまだわかるのよ。でも全くメーカーに絡んでない外国の会社が日本の機械の内部情報を自由に見れるようにしろって、それなんて黒船?

おしまい

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